実は、古着好きの間で“ヴィンテージタウン”として知られている大宮。その中でも異色の輝きを放っているのが、今回ご紹介する「TOROI」だ。駅から歩いて5分のところにあるビルの2階。中へ入ると、シックな空間のなかに状態の良い古着たちが整然と並べられている。国籍や年代に縛られておらずボーダーレスな印象が強いが、かといって買う人を選ぶような余計な派手さはない。

ラックにかかった洋服一つ一つをチェックしていると、店長の田島由基さんが声をかけてくれた。「こういう古着店はなかなか見かけませんね」と伝えると、こう返してくれた。

「古着といえば、やっぱりアメカジのイメージが強いじゃないですか。僕も実際にアメカジは大好きですが、ここでは“それ以外”の選択肢も提案していきたい。今だったら、70年代のJUNや90〜00年代のTAKEO KIKUCHIなどの日本ブランドも面白いと思います。」

中高6年間をサッカーに捧げた田島さんは、大学に入ってからファッションに目覚めた。実家が埼玉だったので、大学がある群馬まで1時間をかけて通い、そこから古着を見るために都内までさらに2時間かけて移動するような日々。当時は、古着のイメージが定着しつつあった中目黒に通いつめていた。

「白Tにペインターパンツ、サンダルがお決まりの格好でしたね。髪型はロン毛。今だとそんな人は希少種ですが(笑)、当時の古着好きの間ではメジャーな格好だったんですよ。」

そこから田島さんの古着熱は一気に加速。大学2年生のときには、熊谷で月6万円の物件を借りて自身の古着店をスタートさせる。古着のバイイングについては、当時通っていたお店のオーナーたちから助言を得た。メインはレディースのヨーロッパ・ヴィンテージ。自分なりに新しい提案をしようと思っていたが、お店は1年しか続かなかった。

ちなみに、田島さんは古着よりも役所広司のファン歴の方が長い。出演作を全てチェックするのはもちろん、トークイベントなどにも足を運ぶ。

「当時、メンズの古着といえば、60〜70年代のUSA古着が王道で、それ以外は偽物扱いされていました。一方、レディースの考え方はもっと自由だった。だから、僕は(生産国などが書かれた洋服の)タグを追うのではなく、デザインで古着の良し悪しを判断する文化を打ち出したかったんです。ただ、最初のお店では、お客さんに“買う気分”になっていただくところまでいけませんでした。」

同じ時期、彼は「TOROI」のオーナーと知り合う。彼は元々田島さんが通っていた大宮の「少年JUNK」というショップに在籍していたのだが、そこから独立して自分のお店「TOROI」を立ち上げるという。そこのオープニングスタッフとして、古着について人一倍考えていた田島さんに声がかかった。

お店の窓からは大宮の商店街が見える。

「まずは週二回のバイトから始めて、大学卒業後そのまま就職。TOROIでは5年間働きました。コンセプトは、『野暮ったく見られがちな古着を、どうやってスタイリッシュに打ち出すか』。それはお店の方針であると同時に、僕の個人的な方針でもありました。それに、当時は“古着を新品の感覚で扱う”お店が少なかった。だから、自分たちが強い姿勢をもってやらなくちゃと。実験、模索の5年間でしたね」

2013年には、このコンセプトをより強く推し進めたショップ「10-9(トーク)」を原宿にオープン。田島さんはオーナーに「ここではユニセックスの感覚を浸透させたい」と直談判し、レディースの洋服であっても男性に合うと思えばメンズのラックに並べた。さらに、当時はまだほとんどの人が“正統な古着”として認識していなかった日本のヴィンテージ、TOKIO KUMAGAIやMICHIKO LONDON KOSHINO、KANSAI YAMAMOTOなどの洋服を、アメリカ古着の中に混ぜて置き始める。

この日田島さんが履いていたシューズは、90年代のプラダスポーツ。珍しい配色。

「今よりも個人的な提案が強かった時期だと思います。最初の年は誰も理解してくれずに苦労しました。今では、色んな年代・国籍の古着がフラットに見られるようになりましたが、そんな状況が訪れるなんて当時は想像できなくて。めちゃくちゃ孤独でしたね(笑)。」

だが、次第に感度の高い大学生の間でお店の評判が広まっていく。常連客がつくに従って、田島さんが打ち出したカルチャーも浸透し始めた。そこでは約6年間働き、昨年の11月に会社の意向でTOROIに戻ってきた。原宿時代は自分の中のオリジナリティを追求していたが、今では考え方も変わったという。

ルイヴィトンのコート。ハイブランドも古着になると、一気にリアルクローズに見えてくるから不思議。

「原宿では『古着の価値観を更新するような提案がしたい』という思いが強かったので、自然と客層も若い人たちに絞られていましたが、今は老若男女に開かれた空間にしたいんです。だから接客でも、自分の提案を押し付けるんじゃなくて、相手の感性を引き出すことを意識するようになりました。」

「TOROI」に行けば、「古着に決まった枠はない」ということを実感できる。まだ古着の楽しみに触れたことがない人にもオススメしたい良店である。