先日記事を掲載した古着店「TOROI」から一の宮通りを駅と反対方向に2〜3分歩いていくと、「ポンメガネ」のキャラクターが描かれた印象的な看板を発見。木枠の扉の奥には、小さなスペースにメガネがズラッと並んでいる。中へ入ってランイナップを見てみると、モスコットなどの定番だけでなく、見慣れないHaffmans&Neumeister(ハフマンス&ノイマイスター)やTAVAT(ターバット)、Preciosa(プレシオーサ)などのブランドも取り揃えられており、早くもバイヤーのこだわりがかいま見えた。

これは、数あるメガネのセレクトショップの中でも、かなりコアな部類に入るかもしれない。さっそく店主の神田賢一さんに、まずはブランドをセレクトする際の基準について伺った。

「あくまでお客さまの好みであることが前提ですが、トレンドではなく常に今あるモノの“次”を提案するように心がけています。例えば、昨年は細めのメタルフレームが流行っていましたが、今だったら分厚い黒縁を提案してみよう、とか。ここはファッションコンシャスなお客さまがよく来店されるので、その方々に洋服と同じ優先順位でメガネを選んでいただきたいんです。」

神田さんは大学卒業後、一度はメガネとは全く関係のない会社で営業職に就いたが、大きな怪我をしてしまい退社。ある時、祖母がたまたま足を運んだメガネ屋さんで、メガネの専門学校のパンフレットを見つけ家に持ち帰ってきた。両親もメガネをかけていたし、馴染みがないこともなかった。神田さんは直感でその学校へ入学することに。最初はデザインを学べるものと思っていたが、実際は目の構造や「見ること」に関する研究にほとんどの時間を割いた。

「僕が学生の頃はドラマの『ビーチボーイズ』が流行っていたので、みんな主演の反町隆史の真似をしてサングラスをかけていたんですよ。そういう時代背景もあって、僕はどちらかというとスタイルからメガネに興味を持ったタイプでしたね。」

また、神田さんは専門学校に通いながら、先生に紹介してもらった職人についてメガネ作りのノウハウも学んだ。卒業後はメーカーに就職。そこでは長く働くつもりだったが、ずっと存在は知っていたポンメガネがスタッフ募集を出しているのを発見し、「個人のお店に入れるチャンスなんてそうないだろう」と、迷うことなく転職を決めた。

神田さんはここで働き出して今年で10年目。今では、大宮店のバイイングを全て任されている。東京の展示会だけでなく、ヨーロッパ最大級といわれるパリの「SILMO Paris」にも足を運び、最初にも紹介したターバットやプレシオーサのような日本にほとんど入ってこないブランドも積極的に買い付けるようにしている。

 

ターバットはイタリアのアイウェアブランド。「SoupCan」と名付けられたコレクションは、キャンベルスープを縦に切ったときの断面からインスパイアされたメカニカルな機構が特徴。

こちらはプレシオーサが製造していたULTRA社のGOLIATHというモデルを復刻したフレーム。かつてRun-D.M.C.のメンバーがかけていたことで人気を博した。

また、このお店のもう一つの魅力はヴィンテージ。特に、日本人の間でも人気が高いフランス発のLesca Lunetier(レスカルネティエ)などは、現行とヴィンテージをラック上で横並びにして、歴史をうまく表現している。

「メガネを楽しむ上で、ルーツを知っていただくことも楽しさの一つです。例えば、現行のモスコットは、50年代〜70年代に製造されたオリジナルのタートオプティカルをサンプリングしています。そして、そのタートを創業したジュリアス・タート氏の甥であり、自身もタート社で長く働いていた経歴を持つリチャード・タート氏と日本のメーカーが組んで誕生したのが、大宮店でも取り扱っているJULIUS TART OPTICAL(ジュリアスタートオプティカル)。この関係性、歴史はかなり面白いですよ。」

お店では、オリジナルのタートオプティカル(ヴィンテージ)もストック。

まさに温故知新。このお店に来て実際に話を聞いてみないと知り得ない文脈があることを、まざまざと思い知らされた。毎日の生活を彩ってくれる特別な一本を、ぜひここで見つけてほしい。