かつての東京五輪の舞台は 市民の憩いの場へ

 

東西に約2.5kmの細長の水面の上を、威勢のよい掛け声とともに数々の艇が滑っていく……。

国内で唯一人工的に作られた静水のボートコース・戸田漕艇場。大学や実業団に所属するトップクラスの選手から一般市民まで、年齢層問わず幅広く活用されている「漕艇のメッカ」だ。

戸田公園駅から徒歩で向かって行くと、スカーンと気もちのいい広い空が現れる。ボートコース沿いには様々なクラブハウスが軒を並べており、新旧様々なデザインが見られるのも目に楽しい。どのクラブハウスも1F部分にボートを収納するガレージを備えており、2Fにはラウンジらしきスペースが。ミーティングに余念のない選手たちが見受けられた。

この漕艇場、もともとは戸田周辺の荒川治水事業の一環として計画され、1940年に開催される予定だった東京オリンピックのために造成されたもの。日中戦争の激化によって開催が返上されたあとも造成が継続され、同年10月に完成。1964年の東京オリンピックでついに陽の目を見て以来、数多の漕艇競技の大会とともにその歴史を刻んできた。

隣接する荒川河川敷を含めて周囲にグラウンドや広場が多く、抜けた景観からランニングや散歩のコースとしても定番。春には水辺に沿って植えられた八重桜、夏には戸田橋花火大会と、四季の記憶を生む市民の憩いの場だ。