戸田駅の目の前にあるモール・T-FRONTEの2階へあがると、そこに予想外に広大な本屋さんが現れた。その名は明文堂書店TSUTAYA戸田。そこかしこに観葉植物が置かれ、通路幅は広々としている。本の表紙がズラッと並ぶ壮観な本棚をいくつか抜けていくと、絵本で囲まれた一際目立つエリアが目に入る。
中では子どもたちが靴を脱いで、絵本を一心不乱にめくっている。一方、お母さんたちは段差に座って世間話に興じていた。本=楽しいもの、というイメージに溢れたこの環境は親子にとって理想そのもの。よく見てみると、効率的な収納には向かないため他の本屋さんではあまり見かけない曲線の棚を使用するなど、デザイン面でも一線を画している。どのようにしてこのお店が出来上がったのだろう? 同店のプランナーを務める三村喜史さんに話を聞いてみた。

三村さんが好きな作家は伊坂幸太郎、生涯ベストブックは山田詠美『ぼくは勉強ができない』とのこと。
「ここは中国の超高層ビル・北京バンプスなどを手がけた迫慶一郎さんという著名な建築家の方にデザインしていただいています。きっかけは2007年に石川でオープンした明文堂の金沢ビーンズ店。うちの会長はかなり凝り性なので、『普通の書店にはしたくない』という思いが強く、その時はじめて迫さんに依頼して豆の形をした建物を作りました。そこから2人の付き合いが始まって、戸田店の内装デザインもお願いすることになったんです。」
そんな話を聞き改めて店舗に目を向けると、確かに細部にまでデザインが施されていることがわかる。例えば、児童書コーナーの棚には点滅型の小さなライトが埋め込まれていたり、店内の緑が全て本物だったり、インパクトを重視して本棚が一般的なものより高さがあったり。見るからに奇抜なデザインというわけではないが、そうした細かい施策が積み重なって、唯一無二の雰囲気を作り出している。

植えられた木も全て本物なので、毎日スタッフが世話をしている。
それにしても、なぜここまで児童書のエリアが充実しているのだろうか?
「子どもの頃に本を手に取るか取らないかで、その人の読書人生は大きく変わります。だから、本屋としてはまず児童書の環境を充実させたい。ここには『いないいないばあっ!』や『だるまさんシリーズ』」のようなミリオンセラーから近年話題のヨシタケシンスケさんの本まで、あらゆるジャンルを取り揃えています。また読み聞かせのイベントなども開催していますね。」

本棚には子ども用に小さな入り口が。
自分が小さい頃にこんな場所があったら、とつい戸田市の子どもたちが羨ましくなってしまう。もうひとつ、ここで注目すべき点は、自由に遊び回る子どもたちに対してスタッフが寛容であること。だからこそだろう、店舗全体にも風通しの良さを感じる。よく見ると、所々に置かれた椅子に座ってのんびり本を読んでいる大人のお客さんも多い。三村さんいわく、会長は「お客様にはゆったりとした雰囲気の中で本を選んでほしい」という方針だそう。広場のような公共性。そこに書店の原点を見た気がした。
さらに、TULLY’S COFFEEとTSUTAYAが併設されているので、休日はここへ来れば知的な欲求をすべて満たすことができそうだ。
「元々は会長がニューヨークでカフェ併設型の本屋さんを見て感動したことがきっかけで、今の形になりました。僕たちにとっては“何か一冊でも買って帰りたくなる書店”が理想。だから、この落ち着いた雰囲気でゆっくり本と向き合ってもらいなと思っています。」
セレクトが偏らない中規模の本屋さんが町からどんどん姿を消している中、明文堂書店の存在はとても貴重だ。新しい世界の扉を開けてみたいと思ったら、ぜひ足を運んでみてほしい。