閑静な中浦和駅の西口を下りると、すぐさま目に入ってくる三角屋根の建物。外から見える窓には子どもが描いたと思わしき落書きが。入り口の前には「横たわる女」とタイトルがつけられた石像が鎮座している。上を見上げると「Arts Labo. 浦和造形研究所」と書かれた看板。

こんな駅前でアート教室を発見することはかなり珍しい。中に入ってみると、今日はちょうど3階で絵画教室が開かれていた。さっそく、ここを運営する金子希望さんに案内してもらう。

屋根が三角形になったいかにもアトリエ然とした空間の中で、生徒たちが黙々とキャンパスに向かっている。すると、猫の絵を描いていた一人の女性がおもむろに「この草の色はこれで良いですかね?」と先生に質問を投げた。そこから「うーんと、もうすこし明るいほうが……」「全体にコントラストが出ますか?」「そうですね」「そうよね、自分じゃそういう発想にならないものね」というやり取り。「先生が教えている」というよりも「絵のうまい友達からアドバイスをもらっている」という感じ。金子さんはこう話す。

「うちの先生は、基本的に生徒さんのことを自分と同じ“作家”だと思って接しています。(今日の先生を務めていた)中井さんは生徒さんが迷った時にそっと手を差し伸べるタイプ。中には生徒さんと一緒に考え込んでしまう先生もいて(笑)。先生たちはみなアーティストとしても活動を続けているから、生徒たちと対等な目線で接することができるんです。」

火曜日と水曜日に日本画のクラスを担当している中井昭一さんは、かつて東京藝術大学で学んでいた。

元々、この建物は彫刻家だった金子さんの父親が友人たちとシェアしていたアトリエだった。それがある時、子どもたちに美術を教える「小さな芸術家たちのアトリエ」として再スタート。その後、多くのリクエストがあったことから大人へもその門戸が開かれ、現在は合計400人弱の生徒を抱えるまでの規模になった。

金子さんは中高時代サッカーに打ち込み、父親のようにアーティストになろうとは考えていなかったが、20歳の頃に「教室を手伝ってくれ」と依頼されたことがきっかけでここの運営者になった。

ここでは、日本画から水彩画、油絵、陶芸、彫刻まで幅広いジャンルの先生が教室を受け持っている。生徒さんたちが通う理由も様々。中には「漫画家のアシスタントになりたいけれど、最低限の画力がないと応募できないから」という理由で、空き時間にデッサンを学ぶ若者もいるそうだ。

「今は分社化しているのですが、昔は同じ会社の中で『臨床美術』の事業を御茶ノ水で営んでいたこともありました。要はアートセラピーなんですが、高齢者の認知症を予防するだけではなく、働く世代がふだん感じているストレスを軽減させることも目的に含まれています。こっちのアート教室も、お子さんとリタイア世代の生徒さんが多いイメージがあると思いますが、最近では若い人たちが会社終わりや休日に通うケースが増えてきました。」

こちらは駅から5分ほど歩いたところにある別の建物で開催されている陶芸教室の様子。みなさん作業に没頭中。

どの教室も広々としていて、都心ではとても味わえないような落ち着いた空気が流れている。制作環境としては理想的だろう。作家たちがそれぞれに独立していて、オープンスペースなのにお互いが変に干渉するようなこともない。何かに夢中になっている人の美しい姿を久しぶりに見たような気がした。

「30年以上通っている生徒さんもいますが、彼はもはや『上手くならなくていいんだ』と言っていますね。『この教室に通うことが生活の中に組み込まれていて、良いリズムを生み出しているから、それで十分なんだ』と。そういうことらしいです。」

アートが身近にある生活とは、何もギャラリーが集中する都会に住んでいる暮らしのことだけを意味するのではない。何十年も前にアーティストたちが実際に住みながら制作に没頭していた場所で、実際に何かを作ってみる。よく考えてみると、それはなんと贅沢な行為なんだろう。