これまでもこれらの記事でお伝えしてきた、埼京線沿線上に存在する都市施設帯という町の空白。それが初夏を先取りしたようなある春の土曜日に、1日だけ「公園」になった。

コーヒースタンドとベンチ。看板には「SAI-KYO DIALOGUE LINE PARK」という名称と「お気軽にお入りください」の文字。1日限りの公園のコンテンツはシンプルだ。はたしてこれで人は訪ねてくれるのだろうか。

結論から言うなら、こんなに幸福で新しいムードに包まれた住宅街の休日はそうそうないだろう。そんなハッピーな賑やかさだった。ましてや、そこが昨日まで(そして明日からもまた)空き地であることを考えてみれば、その感はいや増した。いったいどのようにしてその「公園」は開かれたのか、振り返ってみよう。

 

コーヒーを手渡されれば、座っておしゃべりしたくなるということ

 

地域住民と一体となって進められた「公園」づくり。まずは朝一番にランドマークとなる小屋と看板が制作・設置された。あらかじめ計算の上パーツ化されていた素材を組み合わせること、わずか1時間半。

あっという間に小屋は建った。立体物は強い。昨日まで空き地だった場所に、なにかがある。道行く人にとって、その違和感が次第に興味へと変換される。


そんな小屋でコーヒーをふるまってくれたのが、戸田公園に店舗を構えるコーヒーショップ・Hey Coffee。地元の朝市でも愛されてきたスペシャリティコーヒーが与えてくれるのは、豊かな香りと味だけではない。カップが人から人に手渡されれば、そこは憩いの場に姿を変える。

偶然自転車で通りかかった50代とおぼしき男性が、やや不安げな目で「公園」を眺めていた。

するとすでに来場していた方が、自然な足取りでコーヒーを持って近づいていく。それを手渡し、おそらくこの場所の説明をしたのだろう。不安から興味へ表情を変えた男性と一緒に、小屋とベンチの方に足を運んでいく。数十分後、男性はすっかり場になじみ、テーブルで交わされていた会話にツッコミを入れていた。

人が集まり始めたお昼ごろ、休日なのにスーツ姿の男性の姿が見えた。誰だろうと近づくと、先日の戸田市長選で選ばれたばかりの菅原市長だった。

集まった人たちから小さな歓声がこぼれる。聞けばこれが市長としての初(!)の公務だという。コーヒーを片手にひとりひとりと歓談をしている姿が印象的だった。

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