——佐藤さんは、都市施設帯が何かご存知でしたか?
いえ、このお話を頂くまでは知りませんでした。最初聞いた時はなんだろうって、全然分からなかったですね。Webで検索して調べた結果、JRが持っている土地なんだな、というくらいは何となく理解して。特に駅の近くにある空間は、もったいないから何かに活かせないかな、って思っていました。
——もし、この都市施設帯が「公園」として使えるとして、佐藤さんならどんな風に作ってみたいですか?
例えば高架下だとすれば雨をしのげるので、天候関係なくアウトドアが楽しめるという点は活かせそうですね。ここを屋内型のスケートボードパークにしているのも、僕自身が雨天の時にスケートができないジレンマを感じていた経験があってのこと。
もしTRINITYを作る前に高架下や都市施設帯が使える状態になっていたら、そこにスケートボードパークを作っていたかもしれません。
——海外では高架下のスペースを、ストリートスポーツを楽しむための空間として有効活用する事例がありますよね。
スケートのビデオにもよくそんなシーンがでてきますね。話を聞くところによると、地元のスケーターたちが集まってDIYでスケートができる空間を作り、徐々に街の人達にも認められていく、みたいなケースもあるみたいです。そういうDIY精神が、ストリートスポーツの文化を下支えしているんだと思います。
——スケートボードそのものの捉え方に、国内と海外でここまでの差があるのはなぜだと思いますか?
やはり、文化として生活に根付いていることが大きな違いだと思います。スケートボードは2020年の東京オリンピックの競技として正式に認められましたが、やはりサッカーや野球などのメジャースポーツと比べると、日本国内での認知度はまだまだ圧倒的に低いままです。
——ほとんどの公園でスケートボードが禁止されているため、知る機会が少ないのかもしれません。
それも大いにあると思います。そもそも最近の公園は制限が多すぎて、僕からするとちょっと抑圧されているようにも感じます。キャッチボールができないなんて、昔の日本から考えても信じられないな、と……。
いつでも何をしてもいい、ということにはできなくとも「時間や条件付きで自由を認めるようにする」ことはできるはずですし、市民が自由に扱える空間が、町の中に一つくらいあったっていいんじゃないかなって思いますね。
ストリートスポーツの側面で言うと、おっしゃるようにプレイできる場所がどんどん減っていっている気がします。昔は歩道でスケートボードに乗っていても怒られることは稀でしたが、今はちょっと見かけられただけですぐ怒られたりして、肩身が狭い。単純に、身近な場所にストリートスポーツができる空間がもっと増えてほしいなと思います。
——TRINITYは年齢やスキル問わず、様々な方がストリートスポーツを通して交流していて、まさに「公園的空間」になっていると感じます。その要素を因数分解して考察することは、都市施設帯の活用方法にも大いに活きると思うんです。
マイナーなスポーツなので、上手い人だけが居るのではなく、誰にでも入りやすい、開かれた空間にしようというのは心がけていますね。コースの難易度にもバリエーションをもたせています。
——キッズスクールも好評だそうですね。レジ近くで駄菓子を売っていたり、親御さんが団欒できるスペースや店外にフードトラックを呼ぶといった「スポーツ以外の側面」にも気を配っていらっしゃる。
そうですね。団欒のスペースがあることで、親御さんどうしの交流もありますし、空いた時間にふらっと寄ってくれる人も出てくるようになりました。
ただ、これはそうなるように狙って作ったというよりも、いらっしゃる方とコミュニケーションしながら運営する中で、自然と方向づけされてきた気がします。「誰にでも楽しめるように」というコンセプトが、そのまま「公園的」な発想だったというか。
——ここ数年で、スケートボードのユーザーに何か変化はありましたか?
うれしいことに、競技としてのスケートボードはいい意味で低年齢化が進んでいます。オリンピックを狙うようなトッププレイヤーの子たちは小〜中学生がメインで、小学校6年生から中学校1年生くらいまでにプロになる子たちもたくさんいます。また、日常の移動手段として使う人も、一時期よりは徐々に増えてきた気がしますね。
——若者のイメージが強いですが、スポーツではなく移動手段の一つとして捉えることもできますよね。
誰にでもできますからね。乗る、止まる、降りるという単純なアクションなら、ちゃんと教われば数分でできるようなります。変な話、自転車よりも簡単(笑)。スケートボードは生涯スポーツでもあるんですよ。
―「自転車」と「徒歩」の間に位置する移動手段として考えると、街に根付く可能性が模索できそうですね。TRINITYの持つ「誰にでも楽しめる」という開かれた発想が、そのまま都市へ広がっていけばいいなと。
それは面白いですね。小学校や高齢者の施設に教えに行ったりして……。最近はありがたいことに初心者向けのスクールの枠がすぐに埋まったり、スケートボード未経験の保護者の方がお子さんに習わせるケースも増えてきているので、実は少しずつそういった波が広がってきているのかもしれません。