自分が住んだことのない町の、生活のにおいにあこがれる。ここにはどんな人が暮らし、どんな日々を営んでいるのだろうか。どんな店があるのだろうか。自分の生活の外にある、想像のつかない人々のかけがえのない暮らし。

「大宮サンセット」というスピッツの隠れた名曲があって、これはちょっと不思議な曲だ。タイトル通り大宮が舞台なのだが、具体的な町についての情報は出てこない。ただ「俺」から「君」への思いが綴られ、サビに「大宮サンセット」というフレーズが繰り返される。いったいどんな夕暮れだったのだろう。それを探してみたくって、大宮駅に降り立ったのは晴れた2月の16時だった。


駅越しに夕日を見たかったから。そんな理由だけでとりあえず東口に降り立つ。まずは1番街商店街を抜けながら歩いていく。これだけ大きな駅だからチェーン店がたくさん目につく。もちろんチェーン店は尊い。安価で便利ではずれがなくって、何より群衆の中に自分をふわっと隠しつつんでくれる。でも町の息吹はそんなチェーン店のあわいや、一本入った裏路地からひそやかに匂い立つ。利便性と町の歴史の交差点は、メインストリートと路地の角にある。そう思って路地に入っていく。

男たちが10数人路上にひしめき合って立っているので近づいてみると、今は少なくなった路上の喫煙所だった。近くのパチンコ屋から流れたのだろうか、今日の戦果の報告をしあいながら、目を細めて煙を吐き出している。繁華街を一本入ってみると、すでに営業を開始している個人店とおぼしき居酒屋がちらほら。活き造りの食品サンプルの鯵と、目があった。


大宮区役所近辺まで出てみると、すこし町が落ち着きいくつか気になる店が見えてきた。天然酵母の文字にひかれて、一軒のパン屋に出向く。「にじわパン」は表通りに向けて窓口上の扉が開かれていて、そこからショウケースの中のパンを注文する。ベーグルと、ベーコンピケ。ひとまずこれで明日の朝食という戦利品を獲得した。買ったそばから食べたくなる、香ばしいかおりが鼻をくすぐる。

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