クリエイティブには「空間」が必要

――ものを作るにあたり、スポットとしての場所は問わないけれど、空間の広さが必要ということですか?

犬飼 そうですね。場所がないと想像ができないんです。逆に言えば、人間の想像力というのは、空間の広さが規定しているとも言えるでしょう。例えば、空間があるから本を買おうと思うんですよ。家が手狭だと、そもそも本なんて買おうと思わない。埋めていく気持ちが必要なんですよ。

内沼 ああ、本屋が豊かだと思えるのは、空間の広がりがあるからかもしれないですね。

犬飼 でも例えばこの「eスポーツ」の仕組みを使ってAmazonを地面に投影しますよね。そうすると仮想店舗ができて、実際に歩いて本を選べる。さらにVRとARの技術を使えば、HMDを付けて架空の書店に入ることもできるかもしれない。

内沼 なるほど、それはやってみたい……。

犬飼 本質的には人間はそのモノ、場所にまつわるストーリーという情報に価値を見出しているので、VRの上でも身に覚えのある形やサイズ感のある店舗にすごく興味が湧いてしまいますよね。

内沼 でも今や、Kindleで本を買う人もいますよね。

犬飼 いきなり情報が欲しい人はそうしますよね。情報としての電子書籍と紙の本は分けて考える必要があると思っています。

――犬飼さんがその思考に至ったのは戸田に住んだことが影響しているのでしょうか。

犬飼 いや、それは若い頃に下北沢に住んでいた時です。

内沼 えっ、それってちょうど戸田を出て下北沢で書店をやってる僕と逆ですね。

犬飼 そうそう。風呂なし4畳半で、レコードや古本がどんどん部屋を埋めていくのを眺めた時に、これはまずいと。クリエイティブになるためには空間を作らないといけない、と体感したんです。でも、内沼さんも本はたくさんあるでしょう?

内沼 僕は一定数しか持たないと決めて、他はデジタルにしてるんです。でも広い書庫を持ちたい、という葛藤はありますね。

——ちなみに、犬飼さんが理想とするサイズ感はどれぐらいなんでしょうか。

犬飼 サッカーのスタジアムです。あれって、僕なりに考えた結果、観客がプレイヤーを目視できる限界のサイズなんです。人間の目というセンサーの限界。

——かなり大きい!内沼さんの理想のサイズ感はどのぐらいですか?

内沼 僕はB&Bの面積がちょうどいいんです。犬飼さんの話と似ていて、やっぱり目視できる限界の大きさなんですね。ひとりの人間が、どこにどんな本があるかをパッと把握できる広さ。スタッフが編集しきれるかどうかも大切ですし。

犬飼 たぶんこれはデザインの本質ですよ。空間自体がメディアで、人間自体もメディアとして捉えた時に、メディアとして処理できるサイズ感なんだと思います。

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