あの人気バラエティ番組「めちゃ×2イケてるッ!」でオカレモンに並ぶ名物キャラクターだった「ダイブツくん」。学ランと大仏の仮面を身につけた岡村隆史の姿は、観ている人に強烈な印象を残したが、その大仏マスクを制作している会社が大宮にあるという。その名はオガワスタジオ。どうしてもその過程が見てみたい……さっそくアポイントをとって工場の中を見学させてもらった。

まずは、ラバーマスクがズラーッと並ぶさまが壮観な応接間へ。取引先との商談もここで行うとのこと。まず、2016年にアメリカ大統領選が大盛り上がりを見せていた頃に「どちらが大統領になるか読めなかったから、とりあえず両方作った」というヒラリーとトランプが目に入った。その他にも『スター・ウォーズ』や『ワンピース』などのキャラクターたち、さらには現代の子どもたちが憧れてやまない例の有名YouTuberなど、様々なジャンルの人物やキャラクターのマスクがずらりと並ぶ。

今回、案内を担当してくださった八木原貴裕専務は、調理学校を卒業した後、一度はパティシエとして働いていた経歴の持ち主。だが、体育会系の職人の世界に馴染めず、途中で腱鞘炎も発症してしまったことから、その道を断念。その後は、クッキングアドバイザーとして鍋を売ったり、銅像を作ったり、おでんのタネを作る工場で働いたりと、職を転々としていた。

「その頃はとにかく何でもやってみたくて。オガワスタジオのことは転職を繰り返す中でたまたま知って、何の気なしに面接を受けました。だけど、当時のメイン商材は映画などで使うモンスターマスクで、まだ一般向けのパーティグッズを作る会社としては知られていなかった。僕もモンスターマスクに特段興味があるわけではなかったし、むしろ気味が悪いなと(笑)。だから、ここも数年で辞めると思っていましたね」

美大出身のデザイナーがマスクの原型を粘土で掘り出していく。

着色される前のラバーマスク。

だが、ある時、自分が大好きだった『スター・ウォーズ』のマスクを作りたいと思い、当時の版権を持っていた小学館まで直談判に行ったところ、「君のところは粗悪品リスト(マスクのクオリティが低いとされる会社のリスト)に入っているから、取引はできない」と門前払いされてしまった。

「めちゃくちゃ悔しかったですね。その時に自分のところの商品がどう見られているかをはじめて知りました。確かに当時のマスクはかぶると頭に真っ白な粉がついたりして、クオリティが高いとは言えなかった。だから自ら機械の仕組みを学んで、試行錯誤を重ねました」

待機する某横綱。

着色を行っていたスタッフの方。ユニフォームの汚れ方から、職人らしさが感じられる。

元々パティシエだっただけあって、手先は器用な八木原さん。当時「オレたちひょうきん族」で爆発的な人気を誇っていた“あの”お笑い芸人をモチーフにマスクを制作し、「デッパくん」として販売した。するとこれが大ヒットを記録。

「最初に『有名人に似せたマスクを作りましょう』と社長に提案した時には、『そんなのはおもしろくない』と断られました。それまで、オガワスタジオは国外向けに映画のモンスターマスクを作っていたので、パーティグッズは邪道だと。だから、巷で流行っているものを片っ端からマスクにして、自分でかぶって社長にプレゼンしたりしていました(笑)」

ラテックスで作られたばかりのマスクには気泡や突起がついているので、一つ一つ手作業でとっていく。昔はこれが徹底されていなかったため、クオリティが安定しなかった。

その熱意は現在も衰えていない。オガワスタジオは16名のスタッフを抱える自社工場で1日600〜900枚のマスクをつくっているが、その最大のメリットは社内にスキルが蓄積されていくこと。なお、現在日本でラバーマスクを自社生産しているのはここだけだ。

「1ヶ月に2つは新商品を考案するようにしています。もちろん失敗作もたくさんありますよ。例えば、お客さんが見た目をカスタマイズできるようにと、マスクの前部分をぜんぶ開けてメイクアップ道具とセットにした商品とか(笑)。でも、こういう商売は思考を止めたら終わりなんです。せっかく自主企画でやっているので、ただ作業をこなすだけではなくて、手に取る人のことまで考えて創意工夫するのが大事なんだと思います」

なお、現在動いている機械の多くは、かつて戦車を作っていた(!)初代のマネージャーが設計したという。当然、そのメンテンナンスも外部に頼るわけにはいかないので、スタッフ自らの手で行う。企画からものづくりまで全てがDIY。創業100年を超えるオガワスタジオは、まだまだ攻めの精神を失っていない。