決め手は、学童保育を支援する戸田市の制度

 

上田さんが夫婦で運営する学童保育「学童CLUB merry attic」(以下、merry attic)。戸田と美女木の2ヶ所に、現在合計39名の子どもたちが通っている。主に日中保護者が家庭にいない小学生児童(=学童)が、小学校の放課後や長期休みなどの時間を一緒に過ごす、いわば子どもたちにとってのサードプレイスだ。

戸田という街で学童保育を運営すること。そこにはどんな経緯と意義があるのだろう。上田さんに尋ねると、こんなふうに答えてくれた。

「もともとは8年ほど障害福祉で働いていたんですが、業界として閉鎖的であることや、他の業界と比べて労働に見合った十分な給料がもらえていないことなど、ずっと思うところがあったんです。勿論、前職には今でも感謝をしていますが、色んな意味で課題を感じていましたね」

上田馨一さん

「それで、いつ頃からか『福祉』という領域はブラさずに、もっと大きな視野で何かできないか…そんなことを考えるようになって。その結果、選んだのが学童保育施設を経営することだったんです。もともと妻が幼稚園教諭だったことも、保育を選ぶひとつのきっかけになったと思います。保育という面では今も彼女からたくさんのことを学んでいます」

実は上田さんの出身は埼京線沿線でもなければ、埼玉県内でもない。学童保育を開業するにあたって、2年ほど前から全国各地の地域をリサーチし、行き着いたのが偶然、戸田だったのだという。

「学童保育に挑戦するのはもちろん初めてですから、なるべくそういった業態への支援の仕組みがある町でやりたい。そう思ってリサーチする中で、ここ戸田を知りました。戸田には市の課題として『多子高齢化』があるんです。この課題を背景に、学童における市からの補助金(※戸田市学童保育室運営等事業費補助金)の存在を知ることができて」

※…戸田市では児童の放課後の健全育成を図ることを目的とし、待機児童がいる学校区で一定の条件を満たした学童保育室を運営する場合、運営事業者等に補助を行っている。

 

大人だって居場所を求めている

 

2017年4月にmerry atticをオープンすると、その評判は口コミでまたたく間に広がり、今年4月には美女木に2店舗目となる「merry attic forest」をオープン。学童保育の数が比較的多く、経営目線で言えば「競合が多い」と言える戸田において、どのようにmerry atticならではの特色を出しているのだろう。

「うちは民間学童なので、独自の特色を出すことができます。具体的に言うと、親御さんの代わりに宿題をしっかり見てあげることや、『パティシエ体験イベント』のような、スタッフの経歴を活かしたイベントを週に1回行ったりしています」

「ほかにも、先日は父の日に合わせてデザイナーさんを呼んでプレゼントを作る企画もやりました。土日だといらっしゃるお子さんも少ないので、みんな鎌倉まで遊びに行こう!って急遽ドライブに出かけたりも(笑)。昔、自分が福祉業界に対して閉鎖的に感じていたからこそ、自由度が高くて開けた場所でありたいと思っています」

「学童保育」の対象は小学校1年生〜6年生まで。高学年になるにつれて、留守番ができるようになるなどの成長から「卒室する」(学童保育から出る)子が多い。卒室によって学童保育は役目を終えることになるのだが、上田さんは見据えるのは、さらにその次の年代。中学校に進学し「中1の壁」にぶつかった子たちの居場所を作ることだという。

「中学校1年生は、学習面をはじめ、その大きな環境の変化に大きな戸惑いを感じます。これが『中1の壁』と呼ばれるもので、場合によっては不登校になるケースもあります。上手く適応しようとしている子たちが、気軽にSOSを発信できる場所を作りたいんです。卒室しても、いつでも戻ってこれる。そういう場所があることが、今の時代にはとても大事なんじゃないかなって。

外部から先生として色んな方にお越しいただくなかで気づいたのは、大人だって発信の場や自分が活躍できる、リアルな場所を求めているということ。大人も子どもも、場所さえあれば交流できるんです。SNSの揺り戻しからくる、現代ならではの孤独感や寂しさのようなものを解消する場所づくりが理想ですね」