シドニーで培った“脱チェーン店志向”

 

——ふたりとも、コーヒーに対する向き合い方が近いんでしょうか。

坂尾:うーん、直接そういう話はしないんですけど、僕も由佳ちゃんもオーストラリアにいたので、あの空気感がわかってるっていうのは大きいですね。

戸田:それはあります。篤史さんだと、全部説明しなくてもいいんですよ。お兄ちゃんみたいな存在です(笑)。

——シドニーのコーヒーカルチャーって、どういう感じなんですか?

坂尾:街に根ざしてますね。どんな駅でも必ずカフェが1軒ある。コーヒーリテラシーが全体的に高いんですよ。「イタリア移民が多いから」とよく言われるんですけど、他に娯楽がないっていうのも大きいかもしれないですね。エンターテインメントはないけどカフェはある、みたいな。

戸田:女性なんて、買い物とか楽しめないですからね。

坂尾:行くとしても海だよね。休日は家族でカフェに行ってブランチを食べて、おしゃべりをして。ただ、ポートランドやサンフランシスコもそうですけど、ヒッピーカルチャーやオーガニックへの理解というのが根底にあるんですね。そこからコーヒーに派生して、文化が根付いたのかなと思います。

——その感じを肌感覚でわかっているっていうのは大きいですね。

戸田:なので、私は脱チェーン店志向なんです。オーストラリアのカフェって、ベビーシートなんてなかったりするんですけど、赤ちゃんと一緒のお母さんがたくさんいるんですよ。日本だと、若いお母さんが子どもを連れていくところがファミリーレストランだったりする。それはちょっと寂しいなと。

——シドニースタイルを実践したいと。

戸田:個人のお店をどんどん行き来できるようになったら、コミュニティも生まれてもっと面白くなるはずって思うんです。このあいだ、年齢も職種も違う常連のお父さんたちが、「パパたちで何かいいものを作っていきませんか?」って話をしてたんです。そうそうこの感じ!って。そういうところから、何かカルチャーが生まれていくと思うんですよ。

——こういう仕切りのない空間だと会話も生まれるし、話も広がりますよね。なんといっても由佳さんがハブになっていますし。

戸田:お客さんに面白い人が多いから、楽しいんですよね。

コーヒー以外に季節の果実を使ったドリンクも。左は甘夏ソーダ(なくなり次第終了)、右はすだちソーダ。いずれも450円。

 

ローカルで根付くために

 

——坂尾さんから戸田さんに、メッセージはありますか?

坂尾:一人でお店を始めるというのは大変だと思うんです。(お店が)ローカルに根付くって、1年や2年でできることじゃないですから。僕自身2012年に奥沢に店を作った頃は、まだ焙煎をやっているコーヒーショップも多くなくて、今ほど浅煎りコーヒーも知られていなかった。雑誌に載って人が来ても、常連さんになるわけじゃないんですよね。やっぱりその街に住むご近所の方に来てもらいたいですし、それが3年ぐらいしてようやく馴染んできたかなって思えたんです。最近、中目黒にも店ができましたけど、そこも少しずつ、少しずつなんだなと思っています。

〈ONIBUS COFFEE〉中目黒店は昨年1月にオープン。カウンターからコーヒーの香りが漂う。

焙煎も店内で行っている。

戸田:ありがとうございます。そうですよね、少しずつ。

坂尾:店舗数も増えて人も増えてくると、スタッフ間の意思の疎通がとりづらくなってしまう。なのでうちでは今、コンセプトブックを作っているんです。僕とカメラマンで豆の産地に行って取材をして、デザイナーも入れてしっかりまとめています。部数限定で一般にも販売する予定ですが、スタッフがそれを読むことで、常に原点に立ち返ることができたらなと。

——地元のコーヒーショップであり続けながら、適度に拡張していくって大変なことですよね。でも先ほどの豆の話で「顔が見える」っていう部分を大事にしているのが、軸がブレない由縁なんだと思いました。由佳さんは今後の〈Hey Coffee〉でやりたいことはありますか?

戸田:今考えているのは、周辺のお店の方々と一緒に何かやれたら…っていうことです。そうやって手を組んで、街の人たちが行き交えるようになったらいいなぁって。うちはカフェだから窓口になりやすいですしね。

——街にコーヒーショップがないからこそ、可能性がたくさんある気がします。

坂尾:もともとないところに店を出すってところもいいですね。

——しかも〈Hey Coffee〉の場合は、戸田に住んでいて、戸田のことをわかってるっていうのが強いですよね。マーケティングをして、コーヒーショップがないから出そう、っていうのとは違うというか。

戸田:うん、そういう目線ではないですね。周りのお店も巻き込みつつ、イベントもたくさんやっていきたい。「あそこコーヒー屋なの?変なところ!」って思われたいです(笑)。

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