JR大宮駅東口を出てすぐのところにあるWEST SIDEと名付けられた細いストリートを抜け、中山道を渡ってさらに道を進んでいくと、QBハウスの上に正方形の看板が見える。約100種類のベルギービールが集結しているここ「ベルジャンビアバー・バービーズ」は、ベルギーの食文化を深く愛するオーナー・松本卓也さんによって、2013年に立ち上げられた。

大宮で育った松本さん。

「日本でも“ビールの国”というイメージが強いドイツでは、麦とホップの原料由来の風味で勝負するのが好まれる一方、ベルギーではフルーツやハーブ、スパイスなどの“+α”がビールの個性となります。僕はその多様性に惹かれているんですよね。」

2005年に輸入ビール専門店を立ち上げた松本さんは、2010年に「ビールのことをもっと知りたい」との思いから初めてベルギーへ渡る。約1週間の旅行中、有名な観光スポットの他に事前に調べて気になっていた醸造所をまわった。現地では、フレンチがベースとなっている食文化のレベルの高さにも感銘を受けた。カルボナート・フラマンド(牛肉のビール煮込み)、ワーテルゾーイ(鶏肉のクリーム煮)、ムール貝料理……新鮮なシーフードを使った料理や、うなぎを使った料理などもあった。

ベルギービールは、ラベルも趣向が凝らされていてデザイン性が高い。

また現地の街では、日中ビアカフェでビールを飲みながら老若男女がおしゃべりを楽しんでいる光景をよく見かけた。ベルギーにおけるビールは、例えば日本におけるカフェで楽しむコーヒーのようなイメージ。じっくり時間をかけて一杯を堪能するというのも、乾杯酒としてのどごしを楽しむ日本のビールカルチャーとは大きく異なる。

さて、松本さんが自分のお店を出そうと考えるほどベルギービールに開眼したきっかけは、まるで赤ワインのような風味のする「ドゥシャス・デ・ブルゴーニュ」だった。

ライトに照らすと、色まで完全に赤ワイン。ブドウなどの果実はいっさい使用されていない。

「最初に飲んだとき、ビールのイメージを覆す赤ワインのような味わいに衝撃を受けました。2回発酵させた後、オーク樽で長期熟成を行うのですが、原料としてフルーツは使用していない。それでここまでの味わいを作りだせるのかと。それからベルギービールの奥深い魅力にもっと触れたいと思い、定期的にベルギーを訪れるようになりました。」

2013年に、数ある輸入ビールの中からもっとも影響を受けたベルギービールに特化したお店を立ち上げることを決意。4月に現店舗を開業した。現地からビールを輸入すると、輸送や品質管理のコストがかかってしまうので、日本ではどうしても割高なお酒になってしまう。その分、現地の空気感や作り手の思いを伝えたり、銘柄ごとの専用グラスを取りそろえるなど、お客さまにベルギービールの魅力を最大限感じてもらうことに全力を注いだ。

「パウエルクワック」という銘柄のために作られたまるでフラスコのような形のグラス。ベルギービールの世界では、職人が“そのビールをもっとも美味しく飲める”グラスの形まで監修することが当たり前だそう。

「ビールはお酒の中で、誰もが一番気軽に楽しめるもの。今まで知らなかったような魅力的なベルギービールの世界を、多くの方に気軽に味わっていただきたいですね。」

ちなみに、松本さんは「一般財団法人日本ベルギービール・プロフェッショナル協会」という団体で認定講師を務めている。お店を始めた当初、日本ではまだベルギービールの情報が体系化されていなかったので、もともと彼は生徒として本団体が主催する教室に通っていたのだが、ある時から講師側にまわるようになった。ここで得られた知識が、お店の運営にも相当役立っているという。

大宮で育った松本さん。

「とりあえず生」の印象はいったん捨てていただいて、「二軒目にしっとりベルギービール」なんて粋なはしごコースを、ぜひ一度試してみてほしい。