戸田駅の東口から後谷公園に向かって10分ほど歩くと、真新しい外装の小さなカフェバー『CAFE BAR 01』を発見。メニューには、「かきのペンネグラタン」や「仔羊の煮込み」など、レストランでもあまりお目にかかれない珍しい一品も並んでいる。
ホームページを見ると、「一流ホテルや有名飲食店で経験をつんだシェフが手がけています」との文言が。立地から勝手に家庭的な趣を想像していたこともあり、その本格派なバックグラウンドが意外に思えた。というわけで、今回はシェフの大久保和明さんに、経歴とお店について話を聞いてみた。
大久保さんの体躯が堂々たるものだったので「学生時代、何か部活はされていたんですか?」と確認してみると、やはり高校まで野球漬けの日々だったという。当時通っていたのは近畿大学附属高等学校で、3年生のときには甲子園にも出場。同じ代にはあの松井秀喜がいた。大久保さんはピッチャーだったが、実は高校入学時にすでに肩を壊しており、3年の間に満足いく結果を残すことはできなかった。
「部活の後輩には横浜ベイスターズなどで活躍した金城龍彦さんなんかもいて、持って生まれたセンスの差を早々と見せつけられました。中学のときにはプロになろうと思っていたんですけどね。その後野球はあきらめて大学に進学するんですが、とくに将来やりたいことも見つからなくて」
ただ、思わぬところに今につながるきっかけが眠っていた。当時のアルバイト先だった飲食店での経験を通して、料理の楽しさに気づいたのだ。元ピッチャーだけあって、手先も器用だった。卒業後は名門・ヒルトンホテル大阪のレストランに就職。フレンチとイタリアンのイロハを叩き込まれた。
「ホテルのレストランなので、『ソース担当』のように分業制が徹底されていました。ほんとうに色んなタイプのシェフが働いていたので、『人から学ぶ』という点では理想的な環境でしたね。」
そこで3年間修行を重ねたのち、もう少し小さな規模のお店で料理全体に携わるべく、新宿のエスニック料理店へと移る。最初は数年やってみて関西に戻ろうと考えていたが、お店全体を取り仕切る楽しさに夢中になっているうちに、あれよあれよと14年が経っていた。だが、危機感も覚えていたという。
「やっぱり料理長になると誰も注意してくれなくなるんです。もちろん他のお店を食べ歩いて自分でも課題を見つけようとがんばるんですが、このままだとシェフとしての成長が止まってしまうなと。同じことを続けていたらダメだと思ったんです。その後は数店舗を渡り歩きました。」
あるとき、求人サイトで『CAFE BAR 01』のオープニングシェフの募集を目にする。戸田には縁もゆかりもなかったが「次はこれをやるべきだ」という直感がわいて、すぐに面接を申し込んだ。一人でメニューから調理までを担当する責任は大きいが、そのぶんやりがいもあった。ここは、今までの経験を全て表現できる場ともいえる。
さて、ここまで聞くと料理への期待が否が応でも膨らんでくる。今日はもっとも人気だという「牛サーロインのタリアータ(1,550円)」と、代表の大隈さん一推しの「バーニャカウダ(1,080円)」をオーダー。
まずはタリアータから。食べた瞬間に「ああ、このお店はきっと他のメニューも美味しんだろうな」と思わせてくれる、納得のクオリティ。お肉本来の風味がきっちり引き出されていて、タリアータの正解を改めて味わった気がした。隣に添えられたルッコラも味が立っている。プレート全体でのパッケージ力に唸る。
バーニャカウダも前菜の域を超えている。ソースはもちろんのこと、なぜこんなに野菜が美味しく感じられるのか。さすがに細かい仕込みについては聞くことができなかったが、今日聞いてきた大久保さんの経歴が生半可なものではないことを実感した。
『CAFE BAR 01』はけっして敷居の高い雰囲気ではないが、そこらのレストランでは食べられないような料理が堪能できる驚きがある。まだ知らない方はぜひ体感してほしい。