武蔵浦和駅から閑静な線路沿いを中浦和方面に10分ほど歩いていくと、無骨なレンガの建物が目に入ってくる。入り口には「埼玉建産連研修センター」とあるが、その隣に小さく「CAFE BISTRO LE VANT」と書かれた緑色の看板を発見。まさかのロケーションにまさかのカフェビストロ……どうも気になる。

試しに中に入って、9月と10月のみの期間限定メニューだというフォアグラカレーをオーダーしてみる。キャッチーなネーミングに惹かれたものの、「さすがにこの組み合わせは重たいかな」と後から心配になってきた。だが一口食べた瞬間、その疑いは一瞬で吹き飛ぶ。

まずフォアグラの焼き加減が絶妙。こんがり焼けた表面が、味と食感の両面で良いアクセントになっている。中国の伝統的なスパイスである五香粉(シナモンやグローブ、フェンネルなどを混ぜて作られたもの)を使ったというカレーは、ほどよく苦味があり、フォアグラの甘みとあいまって完璧なハーモニーを奏でていた。食べ終わった後に訪れるのは満足感よりも一抹の寂しさ。ああ、こんなに美味しくて驚きのあるカレーを食べたのは初めてかもしれない。

フォアグラカレー(1,800円)はシェフ自身も「予想外だった」というベストマッチング

デザートのケーキまでしっかりいただいた後、「ルヴァン」のオーナーである加藤さんにお店の成り立ち、そしてシェフ・原田さんとの出会いについて話をうかがった。

オーナー加藤さん(左)とシェフ原田さん(右)

加藤さんと原田さんは高校時代からの友人。2人は漫画やゲーム、トランプなど“ファンタジックなものなら何でもござれ”な「ファンタジー部」に入部し、遊びに没頭。学年は加藤さんのほうが1つ上だったが、気が合ったのか誰よりも仲良くなった。

高校卒業後、加藤さんは一般大学の法学部、原田さんは料理の専門学校に進学したが、原田さんが同級生とシェアしているマンションがたまり場となっていたため、交友が途絶えることはなかった。よく麻雀で夜を明かし、原田さんは徹夜明けでそのまま専門学校へ向かい、加藤さんはそこから昼過ぎまで眠る。原田さんは学校から戻ると家にいる全員分のごはんを作り、そこからまたレストランのアルバイトへ。そして仕事が終わるとまた徹夜で麻雀。加藤さんは原田さんについてこう話す。

なぞなぞを解かないとデザートが食べられないコースも。ファンタジー部に入っていたというお2人のルーツが存分に生かされている。

焼きメレンゲが敷かれたモンブラン(450円)とさつまいもがレイヤーになったポテロン(450円)。月に1度開催されるケーキのビュッフェイベントは予約開始から10分で席が埋まるほどの人気。

「実は料理もケーキもメニューは全て原田が一人で担当しているんですが、学生の頃から彼はとにかくタフで。今年でお店は3年目を迎えましたが、1年目は定休日も設けていなかった。彼いわく、最初に入ったお店が1日“25時間”働かされるような環境だったので、そこで慣れちゃったみたいです」

原田さんが一足早く専門学校を卒業してレストランに就職する頃、加藤さんは就職活動を始めていた。アルバイトでコンピューター会社の販売員を務めていた時に「受け身の販売員じゃなくて営業をやりたい」と感じていたため、大学卒業後は某大手事務機器販売会社に営業職として入社した。

「そこでは12年間務めましたが、後半は典型的なサボリーマンだったと思います。途中で飽きちゃったんですよね。出勤するとすぐに『営業に行ってきます』と嘘をついて近くのコンビニで雑誌を片っ端から読んでいました。毎日行っているので読むものもそんなにないんですけど(笑)。」

楽観的で人に頼ることをいとわない加藤さんと、ストイックで職人気質な原田さん。学生時代のエピソードも含めて、何だか漫画になりそうなストーリーだ。

ここでもう一人重要な登場人物が現れる。大学時代、原田さんの部屋によく遊びにきていた当時高校生の佐藤さんだ。彼は大学卒業後、24歳の時に公認会計士の資格を取得し、10年後に独立をはたした。

「僕は前職を辞めた後、彼の事務所で営業としてしばらく働いていました。ただ、やっていくうちに『受託だけでは価格競争に巻き込まれて楽しめない』ということに2人とも気づいてしまって。『だったら自分たちの場所を作ろう』と、ここの構想を練り始めたわけです」

当初は顔の広い加藤さんのネットワークを活かし、お金や事業のことで問題を抱える人たちにとっての“駆け込み寺”のような場所を想定していた。そして、人が集まる場所であれば飯と酒は欠かせないということで、原田さんに「誰か良いシェフはいないか」と紹介を求めたところ、今の職場でバリバリ活躍しているはずの彼から思わぬ返事がきた。

「おれがキッチンに立つよ」

それなら彼を主役に据えたビストロの方がいい。となると次は場所探し。ここも加藤さんお得意の“人の縁”によって今のテナントが見つかった。

「忘年会で3人が立てたプランについて話してみたら、(埼玉建産連)研修センターの運営を仕切っていたある先輩が『1階のテナントが空いたから紹介できるよ』と言ってくれたんです。」

そうしてスタートした「ルヴァン」は初年度からテレビで紹介されるなど話題になった。料理の美味しさと店内のアットホームな雰囲気にハマる人が続出し、2号店を出さないのかと聞かれることもあるという。ただ加藤さんいわく「原田の分身でも作らない限り、他にお店を出すことは考えられないですね。彼の味をコピーすることはできないから」。ここでも二人の強い信頼関係を感じさせられる。

最後に、加藤さんが個人的なおすすめメニューを教えてくれた。スペアリブ、豚ハツ、レバーステーキ。全てディナーメニューだ。今度はかならず夜に行こう。