小さなお店、その先にあるもの

 

食材を埼玉県産に限定するということは、実務レベルではかなり不便なことだ。当たり前だが海の幸はないし、野菜は旬を迎えたものしか仕入れることができない。必然的にメニューのバリエーションは限られてしまう。

しかも、スタッフは山﨑さんひとり。早い時は朝6時頃から秩父まで野菜を仕入れに行くこともある。そこから仕込みをして14時に開店し、21時まで通しで営業を行う。どう考えても負荷が大きいのは間違いない。「それでも、僕が伝えたいことをちゃんと表現するにはこのスタイルしかない」と語る山﨑さんを支えるものとは、一体何なのだろう。

「やっぱりお客さんに一番驚かれるのは、食材のことです。今だと秩父で採れた『行者にんにく』を出しているんですが、これが埼玉で採れたものだってことはほとんど知られていません。秩父はまさに食材の宝庫とも言える、今僕にとってアツい場所なんですが、ここで採れた野菜の流通先は都内ないしその生産地域のみなんです」

行者にんにく。この大きさになるまで実に6年ほどかかるが、食べごろは2週間ほどしかない。細かく切ってしょうゆなどにつけても美味い。

近くで採れた野菜なのに、そこに住む人たちには知られていないという矛盾。それはまさに、あのブルーベリーを食べた時に痛感したことだ。誇るべき名産は、きっとすぐそばにある。山﨑さんは続ける。

「週末行けるような近い場所に、こんなに美味しいものがあることがわかるって、すごく良い提案なんじゃないかなって思うんです。それを続けていけば、ゆくゆくは秩父から県内への流通がもっと生まれるかもしれないし、県内の人が秩父へ遊びに行くことだって増えるはず。新しい『線』を生み出していけたら最高ですね」

足掛け6年で培った農家の方とのネットワークを通じて、すぐそこにある魅力的な食材を、理想的な形で届ける。気取らず、でもこだわりは譲らず。いつでも立ち寄れる、小さくて”おもしろいお店”として。そんな哲学をもって生まれたデリカの前途は、きっと壮大だ。

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