武蔵浦和駅から徒歩約15分ほどの場所にある「ヘルシーカフェのら」(以降「のら」)。この店を特徴づけるのは、埼玉県内で採れた野菜や、地元の農家から仕入れた食材をふんだんに使ったプレート料理だ。「地産地消」を謳うだけあって、仕入先の数はかなり多い。一例を羅列すると〈ふるさと両神(小鹿野町)〉のこんにゃく、〈舘野菜園(さいたま市見沼区)〉の野菜、〈Y’s ファーム(富士見市)〉のお米、〈白兎堂岡豆腐店(さいたま市南区)〉などなど。「100%埼玉県産になるメニューの日もある」と聞くと、その徹底ぶりがより分かりやすいだろうか。

ランチプレート(1000円)。この日は豆腐ステーキ、ネギのかき揚げ、おからサラダ等。

特徴はそれだけに留まらない。「のら」は単なる飲食店ではなく、街のコミュニティスペースとしても機能している。店内奥にある16畳ほどの多目的スペースでは、主に子育て中の女性に向けたワークショップが、多い時には月10回以上も開催されているという。店主・新井純子さんは「飲食をしたいというより、自由に集まっておしゃべりをしながら、情報交換ができるコミュニティを作りたいという想いで始めたんです」と話す。

ワークショップスペース。普段はお子さん連れの方の食事スペースになる。

子育てママの味方・新井純子さん。その活動から、メディアや講演出演も多い。

「自分の子どもを育てる時にとても苦労した経験があるんです。悩みを相談する相手もいなくて、一人で悶々としていました。その後に社会教育と出会い、その学びが自身の課題解決につながった経験があって」

この体験がきっかけとなり、新井さんの女性を支援する様々な活動が始まった。どうすれば子育て中の女性が孤独にならず、有益な情報をシェアできるか。熟考を重ねた結果、新井さんが打ち出したのは「コミレス(コミュニティレストラン)構想」という考え方だった。食を切り口にして、誰もが集まれる空間をつくる。そうすれば、子育て家庭の支援はもちろん、高齢者のいきがい支援にいたるまで、幅広い機能を持つ地域の「居場所」を作ることができる。

そんな新井さんの考えに賛同した人たちが集まって、2009年に「のら」はオープンした。以来、ワークショップのバリエーションも増え続け、現在は埼玉大学のプロジェクトに講師としても呼ばれるなど、その活動の範囲は確かな広がりを見せている。「うちは飲食店だから、やっぱり大変なこともあるけどね」。新井さんはそう謙遜するが、ビジネスを優先した運営を行わない「のら」が地域の人々から支持されていることは、これからの飲食業やコミュニティを考える際のヒントになるはずだ。